【前編】マーケターが知るべき Webサイト「コンテンツ活用」成功法則

山口:本日のセッションですが、3つのテーマを設けました。①マーケティングと自社サイトとコンテンツ、②Webサイト用コンテンツの作り方、③コンテンツが作れるパートナーの選び方。テーマに沿って、お話を伺っていきます。

山口:最初に、このセッションの登壇者を紹介させていただきます。枌谷さん、よろしくお願いします!

枌谷さん:ベイジの枌谷です。よろしくお願いします。株式会社ベイジというWeb制作会社の代表をやっております。「BtoBに強い」と打ち出して、ずっと経営しております。

枌谷さん:今回は「Webサイト」と「コンテンツ」が大きなテーマです。当社はコンテンツを積極的に発信し、そこからインバウンドでお問い合わせをいただくビジネスモデルを構築しています。そうした経緯から、コンテンツ、SNSの使い方についてお話をさせていただく機会が多いです。制作会社なのに、なぜかマーケティングやコンテンツのイベントによく呼ばれる…そういうところが、ちょっと変わってるかもしれません。

枌谷さん:マーケティングにおいて、Webサイトはすごく大事なチャネルの一つです。そして、Webサイトの中で一番大事なのはコンテンツだと考えています。そんなお話を、今日は山口さんと楽しくできればなと思っています。

山口:ありがとうございます。今度は私の自己紹介をさせていただきます。株式会社グロースXの取締役COOの山口と申します。グローバルメーカーのグループ会社で戦略コンサルティング事業に始まり、その後は東証1部の上場企業でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、インサイトフォースというコンサルティング会社を設立しております。約20数年間、ブランドとマーケティングのコンサルティングをやってきました。

山口:2021年からグロースXの株主として、2022年6月から取締役として、執行に関わっております。ブランドマーケティング領域から見て、制作やコンテンツとの接点を、お話をさせていただければと思っております。

 

①マーケティングと自社サイトとコンテンツ

マーケティングにおけるWebサイトの重要性

山口:先ほど枌谷さんがおっしゃられたように、自社サイトは大事なコンテンツの一つだと思います。この話題からまずお伺いしたいのですが…、少し大きな質問ですが「マーケティングにおけるWebサイトの重要性」を、枌谷さんはどう考えてますか

枌谷さん:この大きな質問に、大きな回答を返すと「大事です」になります(笑)。細分化するといろいろあるのですが…まず、BtoCビジネスですが、自社サイトや公式サイトへの訪問者が少ない傾向がどんどん強くなっていますよね。実際、我々も商品を買うとき、その商品のWebサイトって実は見ないことが多いでしょう。

枌谷さん:一方で、例えばソーシャルメディアや比較サイトのような、コンシューマーがレビューを書き込むサイトはめちゃくちゃ重要ですよね。

山口:レビューサイトを見て、そのまま買いに行っちゃうことが多いですよね。

枌谷さん:実は最近、車を買ったんですね。でも車の公式サイトをめちゃくちゃ見たかって振り返ると、さらっとしか見てないし、内容も覚えてない…。ですから、Webサイトが必ずしもマーケティング上重要かと問われると、そうでないタイプの商材はたくさんある、というのがBtoCの現実かな、と思っています。

枌谷さん:一方でBtoBビジネスでは、Webサイトがめちゃくちゃ大事だと思ってます。ほぼ間違いなく、購買プロセスの最中、意思決定に関わる誰かがWebサイトへ訪問しています。社内の意思決定の現場でも、Webサイトに掲載されている情報が参考情報として俎上に上がっている機会が明らかに多い。

山口:それだけ影響度が高いんですね。BtoCのWebサイトの訪問者が減っているという指摘、その感覚は私もありますね。BtoCはコンテンツが充実した第三者のサイトが増えているからでしょうか。

枌谷さん:いわゆるアーンドメディア(編集注:第三者であるユーザーや消費者自身が情報発信するメディア)が強いですよね。オウンドメディアは重要なんですけど、BtoBと比較すると、必要性はやや劣るケースが多いかもしれません。

枌谷さん:ただ、例外は多々あって…。我々ベイジは、たまにBtoCのサイト制作もやるんです。ある飲食店のWebサイトを制作した時の話です。食べログやGoogleマップで飲食店を調べても、飲食店の公式サイトって訪問しないですよね。なので、「何のために作るのかな?」ってことから考えて、口コミの元情報を提供するという観点でコンテンツを充実させていったんです。

枌谷さん:そうすると、計画通り、公式サイトに掲載している情報が口コミとして書かれる…っていう行動が発生したんです。このように、他のメディアのコンテンツを増幅させる、あるいは援護射撃するといった使い道まで含めると、BtoCでもまだまだ公式サイトの活用領域はあるのかなとも思っています。

山口:なるほど。なるほど。

枌谷さん:他にも、高級料亭のWebサイトを制作した時は、テレビの取材が増えたという話があります。あるテレビ局関係者がWebサイトを訪れて、旅館の歴史に関するコンテンツを読んで「取材に使えそう」と感じたそうです。そしてテレビに取り上げられて、予約の電話が増える、という流れができました。このように、直接の顧客ではないターゲットを狙いに行く、って使い道は正確な効果計測が難しいのですが、選択肢としてはありえますよね。

山口:訪問するユーザーが少なくても、間接的な影響が大きいんですね。

枌谷さん:そうですね。ですので、総じて言うと、最初に説明したように「めちゃくちゃ大事です」という結論に至りますよね(笑)。

山口:確かに、BtoCでも関与が深まる過程でWebサイトをチェックしますね。先ほどの車の例も、全体に照らしてウェイトが低くても、全く見ないことは無いですよね。商品の細部が気になれば、情報が掲載されているのはきっと公式サイトだろう…って考えて、訪問するだろうと感じました。

山口:付随した質問になるのですが…私はインサイトフォースというコンサルティング会社を経営しています。外部メディアの取材を受けたり、外部ドメインの媒体に露出したり、SNSで積極的に発信したりするのですが、自社サイトのコンテンツってあまり考えていないんです。リードを増やそうという意図が無かったので、自社サイトでは何もやったことがなかったんですよ。

山口:質問は…コンテンツを何かしら生成していくなら、外部サイトではなく自社サイトに蓄積した方がいいのでしょうか?

枌谷さん:う~ん、難しいんですが…例えばコンバージョン件数をコントロールしたい、自分たちをこう見てほしいと想いを込めたコンテンツに誘導したい、そうした背景があれば自社サイトがポータルとなって、そこで全部見れるようになることが良いですよね。

枌谷さん:ただ、ユーザーは情報接点として、Webサイト単位で見ていないですよね。インターネットという場で、どれだけ情報に接しているかの方が重要で、どのドメインに情報が載っているかはあまり重要ではないというか。情報発信の量がものすごく多いと、Webサイトがあまり充実してなくてもどんどんお客さんが訪れる状況は作れちゃいますね。

枌谷さん:つまり「ネット上の発信総量」と「接触する人の数の多さ」が勝負で、双方を維持した上でまとめるのか、分散させるか、だと思います。

山口:なるほど。まとまったサイトがあるんだったら余計いいじゃないと。

枌谷さん:一方でSEOの観点に立つと、例外はありつつも、同じドメインのサイトが検索結果の上位に同時に出現しないアルゴリズムになっているかと思います。検索結果、SERPsとも言いますが、自分たちのコンテンツで占めるって意味では、ドメインが分散してる方が有利という考えもあるんです。

山口:最初の質問に立ち返ると、そもそも外部か自社かではなく、Webサイトは間接的な影響も含めて重要度が一定数あるよ、と理解しました。

Webサイトの中で、特に重要な要素は?

山口:Webサイトの中で、特に重要な要素って何でしょうか? どうしたら、うまくいくんでしょうか? この2点についてお伺いできればと思います。

枌谷さん:やっぱりコンテンツですよね。自分自身に問い掛けてみましょうか。最近見たWebサイトで何を一番記憶しているでしょう。…文章とか図とか写真とか、コンテンツですよね。本当、「Contents is KING」だと思いますね。

枌谷さん:一方、Webの制作会社に発注する会社さんって、妙にユーザーインターフェースの個性にお金かけたがるんです。ただ、ユーザーインタビューやユーザーテストしても明らかで、ほぼ「あんまり覚えてない」っていうのが実態なんです。

枌谷さん:見た目で損してる状態は好ましくないので、一定レベルまで引き上げることは大事なんですが、やっぱり一番投資すべきはコンテンツだし、一番力を入れて磨き込むべきはコンテンツだなって思います。

山口:50点じゃ困るけど、一定水準まで届いたら、あとは中身の問題…ってことなんでしょうか?

枌谷さん:そうですね。例えばWikipediaって、よく見ますよね。Wikipediaのユーザーインターフェースに不満って、あんまり無いですよね。すごく読みにくいわけでもない。コンテンツの世界に没入している。人って知覚が器用では無いので、コンテンツに没入したら他のことはあんまり見てないことの方が多いんですよ。そう考えると、コンテンツ最重視、コンテンツドリブンなWebサイトを作るべきだなって思います。

山口:UIデザインって、斬新なものを目指さない方が手堅いんですかね?

枌谷さん:そうだと思います。例えばECサイトの中には、明らかにアマゾンの模倣だなと分かるサイトがあります。でも、それは人々のマインドセットに「元々ECサイトってこういう作りだよね」という前提で訪問されてる人がいるからなんです。UIデザインでオリジナリティを出すのは、どちらかとリスクになるかもしれません。

山口:Webサイトの話をしていますが、ブランドの何を継承するか何を変えるのかに近しい話ですね。まず、王道の「型」があるのだと分かりました。差別化ポイントじゃない箇所は「型」をしっかり押さえて手堅く作りつつ、肝心のコンテンツはめちゃくちゃこだわり、ちゃんと相手のニーズに合わせて用意する。その使い分けが重要なんですね。

枌谷さん:そうですね。車で考えると、どんなにデザイン性が高くても「タイヤは4つで丸い」「ハンドルで動かす」という原則は守らないと成立しないと思うんです。Webサイトのようなデジタルコンテンツの場合は物理的制約がないのでそうした「原則」すら変えられるんですけど、結局、ユーザーが操作できなくなってしまう。だから、一定の保守性は大事だと思うんです。

コンテンツは、どのくらい載せるのが良い?

山口:コンテンツは、どのくらい載せるのが良いでしょうか? これ、必ずテーマになるんですよね。

枌谷さん:もちろん、良いコンテンツをたくさん作ればいいのですが、お金と時間がかかりますから。ただ…私は、それでも「なるべくたくさん載せた方が良い」ってお話をしています。我々ベイジがお手伝いしているお客さまも、100ページを超えるコンテンツが当たり前のようにあります。それは、ニュースやお知らせで超えているのではなく、純粋に常設されているコンテンツだけで100ページを超えているケースも少なくありません。

枌谷さん:顧客接点やエントリーポイントで考えてみましょう。1人のユーザーが見る量って、だいたい4〜5ページなんです。じゃあ5ページだけ用意すればいいのかと考えると、…果たしてその4〜5ページで満足するユーザーはどれくらいなんでしょうか。

枌谷さん:Webサイトって、24時間、場所を問わず置けるんです。そう考えたとき、Aさんの参考にもなるし、Bさんの欲求も満たすし、Cさんの為になる、それぞれの人にとって役に立つコンテンツを揃えていきますよね。そうすると、自然とコンテンツのボリュームが増えていきます。

枌谷さん:我々ベイジがWebサイトをリニューアルしたり改善したりしていく中で得た知見として、質が良いかどうかは関係していますが、やっぱりたくさんコンテンツを載せているWebサイトの方がパフォーマンスが出る、という明らかな傾向が出ています。ですから、「たくさん載せましょう」というのがシンプルな回答になります。

山口:なるほど。コンビニと同じだと考えると良さそうです。飲み物を買いに来る人だけを顧客とするならドリンクコーナーだけを用意すれば良いのですが、世の中、雑誌を読む人もいますし、肉まんを買う人もいます。だから、シンプルに言ってしまえば、ラインアップを増やせばいいじゃないって話ですね。

枌谷さん:まさにそうですね。だからこそ、「Webサイトはどうあるべきか」で考えるべきではなくて、投資の観点、つまりコストの使い方が最適かっていう観点で考えるべきなんです。例えば新規事業ですと、予算はあまり無いから、なるべく効果的なWebサイトを作りたい…だったら、たくさんコンテンツを作らず、もっともコンバージョンに近いタイプを見極めたミニマムなWebサイトを作った方が、事業としては良いんですよ。

山口:BtoBのWebサイトを制作する観点で考えると、コンバージョンが近いであろう需要が顕在化した人向けの背中を押すようなコンテンツからスタートして、さらに幅広く接点求めるなら、より予算かけて需要を喚起する、ナーチャリングを意識するコンテンツを増やしていくのですね。

枌谷さん:パーチェスファネルで考えると、Webサイトはファネルの下(BoFu)から攻めていった方がいいんでしょうね。パーチェスファネル(ToFu)の最上段は、余裕ができてからやるのが良い。ビジネスがまだ熟してないのに、いきなりToFuを攻めるようなオウンドメディアを作ろうとする投資は、結構リスキーだと思うんです。

山口:ビジネスが成熟してきたタイミング、例えば規模が見えたところでやった方が良いんでしょうか?

枌谷さん:そうですね。いわゆる潜在層を狙うような記事を掲載すると、直ぐには顧客化しない人たちがWebサイトを訪れます。まだ顕在層を上手くコンバージョンに導けてない状態で、潜在層向けにお金をかけ始めるのは、順番としては本当にそれでいいのかなって思います。

枌谷さん:結局、オウンドメディア単体がうまくいって訪問者が増えても、コンバージョンまで辿り着きませんってなったら、あんまり意味が無いんですよ。

山口:需要が顕在化して、予算があるならば、オウンドメディアを作ればそれがアセットになるんでしょうか?

枌谷さん:そうですね。まぁ…事業の作り方と似てますよね。まずは「選択と集中」で、顧客化する可能性が高い特定の集団をガッと捉えに行こう、というお話です。

山口:0~1フェーズのときは、マーケやるより営業やれって話に近いですね。いわゆるコンバージョンに近い人たちと会って、もうこれ以上は周囲の知り合いに声かけても商談作れない状況ってなってから、需要を増やすとか喚起するとか、マーケティングに投資しましょう、って話ですね。

枌谷さん:まさにそうです。Webサイトの成長も、事業の成長とほぼ同期させていくものだと思いますね。

山口:今やっている事業の注力点が分かる図が描けたら、めっちゃ分かりやすそうですね。「自分たちは今このステージだから、これはやらなくていい」と判断できそう。

山口:今のお話から思い出したことがあります。私、Minimal(ミニマル)というチョコレート会社の社外取締役を勤めていました。ある日、急にワールドビジネスサテライトへの露出が決まったのですが、eコマース用サイトを持ってなかったので、ベースさんと契約して、とりあえず3枚だけ写真を挿入した販売ページだけ設けて直ぐ公開したんです。その瞬間に、在庫が蒸発した…って経験があるんです。そういうレベルだったら、とりあえず販売接点だけがあればいいでしょう。後から商品説明を充実させて、その次は「うっすら興味あるけど、まだ食べるというコンバージョンするには至ってない気持ちの人たち」に、ミニマルのある生活を訴える…そんな段階を経るんでしょうか。

枌谷さんそうですね、本当にそうだと思います。時々、成熟した大手企業が実施しているWeb施策を見て「うちもこんなWebサイトが欲しい」とお声掛けいただくことがあります。ただ、事業フェーズが全然違う企業の真似をしても、うまくいかないことが多いんです。Webサイトで目に見えるので、真似したくなったり参考にしたくなったりする気持ちは分かります。でも冷静になって、自社にとっていいのかを考えることが大事です。

山口:クリエイティブなんで触発されますよね。

山口:ちなみになんですが、ベイジさんにはどれぐらいコンテンツの量があるんですか?

枌谷さん:細かいのを入れると、1000ページは超えてますね。1年間のPVでいうと200万か300万ぐらいはあります。我々みたいに30~40人規模の会社で、BtoBの領域で、しかもWeb制作というニッチな職域のわりには、かなりコンテンツがあると思います。

山口:それぐらい、コンテンツが貢献してるってことですね。ベイジさんを知らない人でも、コンテンツをキッカケに知る機会が生まれている。

枌谷さん:年間で400~500件ぐらいのお問い合わせがくるんですけど、多分この200万か300万のPVなりトラフィックがあるからなんですよね。

 

後編では
②コンテンツをどう収集・発掘方法
③コンテンツ制作のための体制構築(正しいパートナーの選び方)
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