【後編】マーケターが知るべき Webサイト「コンテンツ活用」成功法則

②Webサイト用コンテンツの作り方

Webサイトのコンテンツは誰が作っていることが多い?

山口:続いての質問です。Webサイトのコンテンツは、誰が作ってることが多いでしょうか? そう、意外と難しいですよね…。

枌谷さん:BtoBだと、クライアントの担当者さん自身が書いてるケースが多いですよね。ただ、書けない方が圧倒的に多いんですね。現場を回す能力と文章力は別物なので、それは当然のことです。それでも書かなければいけない。なぜなら、Webの制作会社側にライティングをできる人がいないことが多いからなんです。

枌谷さん:結局Web制作会社って、「UI」制作会社であって、「コンテンツ」制作会社の機能がない場合が多いんですよね。こういうWeb制作会社の現状を考えると、理想はクライアントさん側に編集者がいて、いい文章を作れることです。

枌谷さん:例えば、最近リニューアルをちょっとお手伝いしたのがトライバルメディアハウスさん。あとSAIRUさん。彼らは自社でコンテンツを作れるので、本当に強いですよね。そういう場合は、我々は最低限だけのお手伝いで全然済むんです。ただ、そうじゃない多くの会社さんは、自社でライティングはできないので、ベイジのライターがガッツリ手伝わないと、なかなか難しい。

山口:となると、業務内容やサービスの独自性をヒアリングしてから、ライティングが始まるわけですね。

枌谷さん:多くのお客さんは、自分たちの会社のことは書けるんです。ただ、顧客目線で見たときに、それが何のメリットがあるのかまでは書けないんです。基本的には機能説明になっちゃうんですよ。顧客視点のコピーを我々がアシストしてあげなきゃいけない。

山口:先ほどは数が必要だ、という話をしていました。当然ですが量産をお願いするといい値段しますし、時間かかりますよね。そうなると、できれば自社で量産できるのが理想ですよね。

枌谷さん:理想です。ご支援して難しいなと思う点として、ベイジはお客さんのビジネスや業界のパーフェクトな専門家ではないんですよね。その業界の空気感や世界観っていうんですかね…例えば、我々マーケターの仕事でも「こういう文章の方がマーケターには刺さるよね」って書き方があるじゃないすか。

山口:言葉の選び方ですね。

枌谷さん:何度かやり取りしても、なかなか外部のライターでは書けないんですよ。山口さんも何冊か書籍を刊行されていますけど、私も4回ぐらい依頼が来たんです。そのうちいくつかをブックライターさんに代筆してもらったんですが、ほぼ上手くいかなくて…。文章が悪いわけじゃないんですけど「選ぶ言葉がこれじゃない」みたいな違和感がすごい多いんですよ。言葉を丁寧に拾い上げるのは難しくて、やっぱりクライアントさんが書く方が、理想は理想だと思いますよね。

山口:今日、枌谷さんが「コンテンツ多い方がいいです」「ちゃんとやった方がいいです」「御社はそのフェーズが来ています」と話されて、聴衆も全てアグリーだとしましょう。でも、それでも制作ないなら、作る能力がないか時間がないってことなんでしょうか?

枌谷さん:はい、そこに行きつきますよね。…そして結局、コンテンツどうすんの問題に行き着くんですよね。例えばMAを導入してあれこれしましょうとか、メルマガしましょうとか、ウェビナーしましょうって言っても、魅力的なコンテンツがないと機能しませんよね、って話に最終的にはなるんです。

山口:極端に言ってしまえば、デジタルに精通して凄い仕組みが入っているけどコンテンツが駄目な会社より、デジタル凄く弱くてアナログだけど一撃必殺のコンテンツを1本書ける方が成果出ちゃうんでしょうね。

枌谷さん:コンテンツ作りって再現性を捉えることが難しいですし、極めて属人的だから作れる人がいなくなってしまったら誰がやるんだろうってなりがちなんです。だから難しい。コンテンツは、マーケティングの最後の攻略ポイントですよね。

山口:クラウドソーシング系は、あまりおすすめではありませんか?

枌谷さん:クラウドソーシングの関係者の方に怒られちゃうかもしれないですけど…先ほどの業界知識にも通じる話です。質が低いコンテンツを大量量産するのは、一時的にSEOで有利になるかもしれません。ただ、中長期的な投資としては効率良くないな、って思うことが多いのです。

枌谷さん:自分たちで作れないから、安く大量に作ってくれる人たちに任せるより、もうちょっと長い目で見て、自分たちで作れるようになっておくのが良いかもしれません。あるいは、自分たちをちゃんと理解してくれるライターさんと繋がって、長く良い関係を作ると良いでしょうね。

山口:ちなみに、クラウドソーシングでお願いする場合、コンテンツはローコンテクストになるかと考えています。よっぽど難しい業界じゃない限りは、業界標準的なキーワード集とかは成立するでしょうか?

枌谷さん:やり方によっては、ハイコンテクストも大丈夫ですよ。例えば、重要な話は全部会話するんです。喋った内容を文字起こしして、ある程度の形にするまでをクラウドソーシングの方に頼みます。最後の言葉の入れ替えや調整は、また自分たちでやります。部分をお願いするって考え方です。

山口:「言葉のこだわり」をちゃんと反映する最後の工程が大事ですよね。どこにでもあるコンテンツをたくさんばらまいても、あんまり効果は出なくて、他にない優れたコンテンツだから、この会社に頼もう、と思われないと。

枌谷さん:そうなんですよ。コンテンツは独自性が大事になってくるんです。その会社を選ぶ理由。みんなが使ってるサービスプラットフォームに100%依存していては、独自性は出ないです。

「載せるコンテンツがない」という場合は?

山口:「載せるコンテンツがない」って言う人がたくさんいらっしゃるんですけど、そういう場合どうされるんでしょうか?

枌谷さん:質問自体を否定しちゃうんですけど、そんなことないでしょ? …って思うんですよね。お客さんがついてる事業だったら、絶対に載せるコンテンツはあるんです。あるけれど勝手に載せちゃいけないとか、これを出すと競合にばれてしまうとか、自分たちで載せられない…って、決めちゃってることが多いんですよね。

枌谷さん:何でもかんでも全部見せろとは言わないですけれども、もう一歩踏み出してみて、これって実は出してもいいんじゃないか、これってWebサイト上で見れたら実はユーザー喜んでくれるんじゃないか、社内で話し合ってみたらどうですか、って提案しますね。

山口:外部から無理やり「価値っぽいもの」を持ってくるのではなくて、お話を丁寧に聞いていけば、必ずお客さんが買っている理由があるはずです。価値を棚卸すれば、外に見せるものは必ずありますよね。

枌谷さん:あるお客さんから「自分たちは、何を載せていいか分からない」と相談いただいたことがあります。「お客さんに聞いたらどうですか?」って返事したんですね。顧客インタビューして「なぜ私たちの会社を選んだんですか?」「私たちの商品の何が魅力的だったんですか?」って聞いた内容がコンテンツになりますよね。

山口:ちなみにベイジさんがWebサイトを作るときに、コンテンツもベイジさんが作られるのか、お客さんが作られるのか、その比率はどうなんですか?

枌谷さん:最近はほぼ我々ですね。企画は我々が立てています。こういうのを載せた方がいいですから、これに関する情報をくださいって、お客さんに依頼します。でも最後のライティングは我々がやっています。

枌谷さん:我々も今、ライターが6人在籍しています。コンテンツはすごく大事だから、ライターチームを作ろうと思って、3年前から組成し始めました。良いライターさんが6名在籍してくれているので、今はうまく回っているなと実感しています。

山口:Webサイトを制作する場合、コンテンツまでお願いしたいところですが「それはうちでできません」「御社で作ってください」と制作会社から言われる場合もあるでしょう。そんな中で、ベイジさんが「うちは大丈夫です」と言ったら、特に予算のある大手企業は喜びますね。

枌谷さん:ただ、文章って書こうと思えば、みんな書けるじゃないですか。プログラムを作ろうと言われたら「できません。お願いします」ってなりますけど、文章は「自分たちでもできそう」って思われてますから、なかなか高い金額になりにくいです。

山口:文章こそ、人の歌と一緒ですよね。コンサートでも数万円、数十万って世界がありますが、下手な歌聞いても1ミリも払う気がしないですよね。文章もそれぐらいピンキリあるじゃないですか。同じテキストのはずなのに、読んだら買いたくなる文章、仕事したくなる文章、全く心が動かない文章。

枌谷さん:我々のような外部にライティングをお願いすると、自分たちでは想像もつかないような素晴らしいコピーが一発で出てくるんじゃないかって思われるみたいで。実際には、専門性のあるコピーは何度もやり取りしながら一緒に作っていくっていくんですよね。

枌谷さん:ただ、そうすると「自分たちもそこそこ働いてるのに何だよ」って思われがちなんです。ライティングをビジネスにするってすごく難しいなって思いますね。専門家ならではの差を見せにくいというか。

山口:全く効果のない文章50本よりも、すごく人の心を動かして購買に繋がる文章5本がWebサイトに載っていると強いじゃないですか。それぐらい文章によって効果が違うことを認識するのが大事ですよね。

枌谷さん:そうですね。本当にそう思いますね。

どのくらいのクオリティのコンテンツが必要?

山口:どのぐらいのコンテンツのクオリティが必要なんですかという質問なのですが、いかがでしょうか?

枌谷さん:難しい話ではあるんですけど、現実を無視して答えれば、めちゃくちゃ高い方がいいです。ただ、ユーザーがどのくらいのクオリティを求めているかが大事なんですよ。ターゲットのユーザーが欲しいと思ってるレベルは満たさないといけないけど、気付かないようなクオリティまで高めるのは、無駄になる可能性があります。

枌谷さん:どうやって判断するかは、お客さんに聞くのが一番だと思うんですよね。公開しているコンテンツを見て、お客さんがどう思うかです。その声からクオリティを推し量り、このぐらいのクオリティでいいんだなと感覚を掴むのが現実だと思います。

山口:クオリティの定義が、そもそもお客さんによって違うから、ちゃんとお客さんにしましょうということですね。

枌谷さん:ビジネス上のクオリティって、成果に繋がるかどうかですよね。いわゆる制作クリエイターのような「クリエイター目線」でのクオリティと、ビジネス上のクオリティ、この二つで一致してないことが多いですね。すり合わせが割と大事だなと思います。

山口:少し前に、BtoBビジネスでも、Webサイトのデザインがよっぽど酷い足を引っ張るのは駄目ですが、そうじゃない限りはビジネスの成長にそこまで関わりはない…という話をしましたね。

③コンテンツが作れるパートナーの選び方

Webサイトのコンテンツは誰が作っていることが多い?

山口:コンテンツが作れるパートナーの選び方という話をお伺いしたいんですけど…今日これまでの話を受けて、どうしたらいいの? 誰が作れんの? と視聴者は思われているはずです。「コンテンツが大事」を前提にすると、どんな制作会社を選べばいいでしょう?

枌谷さん:あんまり喋るとポジショントークみたいになりますが…やっぱり、コンテンツを作ってる会社を選びましょう。その会社が提供しているコンテンツを見ると良いです。自分たちでオウンドメディアを運営して、「こんな制作会社さんいないかな」という疑問に答えてくれるようなコンテンツをちゃんと載せてるような会社は確実ですよ。

枌谷さん:見た目ではなく、コンテンツで制作会社を評価する。コンテンツドリブンのWeb制作が大事ですから、その観点を持つ必要があると思います。

山口:20年ぐらい前にFlashが流行った時、みんなブラウザ上でグリグリ動かしたり、オープニングのムービーがかっこ良かったり、そういう時代もありましたね。

枌谷さん:難しいのは、コンテンツを作れる制作会社の数が少ないことです。ですから、コンテンツを作ること、Webサイトというパッケージを作ることは、別々の会社に依頼した方が現実的かもしれません。

枌谷さん:オウンドメディア支援やコンテンツ制作を強みとしている会社さんはいくつかあると思うんですよね。ただ、Webサイトの全体設計はそんなに得意でない場合が多いでしょう。そこでコンテンツ領域を彼らにお願いし、Webサイトの全体設計は制作会社に頼む。こういうフォーメーションを組むことを考えた方がいいのかもしれません。

山口:コンテンツを作れる体制を、1社か分業でも構築するってことなんですね。

いい制作会社を見極める方法は?

山口:いい制作会社を見極める方法って何なんでしょう…すごく難易度高い質問ですね。

枌谷さん:短期間で見つけるのは難しいと思いますね。日頃からSNSをやって、こういう世界にアンテナを立てて、いざ頼みたいとなったときに「あの会社とあの会社がいいな」って思えるような状態を作っておくのが良いかなと思いますね。

山口:どうやって発見するんでしょうか? いろんな手段がありそうなのですが…。

枌谷さん:理想論を話すと、マーケターやWeb担当者は、日頃からアンテナを張っておかないといけないです。同業者の方から情報交換を常日頃からしているとか、どの会社が話題になってるとか、話題になったWebサイトを作った会社はどこなんだろうとか、そうしたデータベースが頭に中にある人は、いざとなったときに「この会社がいい」って動けるんですけど、日頃から情報収集を全くしてない人が急に探すのはハードル高いですよね。

枌谷さん:だから、知ってる人に聞くのが一番いいかもしれない。

山口:僕、確かに知ってる人に聞いてますね。自分が関わるBtoBの会社がWebサイトをリニューアルするなら、よく知らないので枌谷さんに相談する気がします。

枌谷さん:我々は「他の制作会社さんに勧められました」って問い合わせが多いんですよ。本来は競合なのに…。我々のビジネスは、同業者に対するブランディングがすごい大事だなって思いますね。

山口:本当に会社なんでしょうか、人なんじゃないかって疑問もあるんです。

枌谷さん:おっしゃるように、文章まで行くと「人だな」と思います。運用型広告もそうですよね。パフォーマンスが出るかどうかって、突き詰めると人によって違いがあるって言いますよね。

枌谷さん:だから、そういう人たちが集っていそうな会社とか、そういう人たちが切磋琢磨してる文化を持ってる会社っていう意味では「会社かな」とも思うんです。…これは、申し訳ないです、私も知りたいって話かもしれないです(笑)

山口:紺屋の白袴ではなくて、自分がやりたいことを既に自社でやれている、もしくはクライアントに対して提供できている会社を見極めるというのが一番難しそうですね。

枌谷さん:業界で有名だからといって、自分たちに合うとは限りませんから、自分たちの目で見て「この会社は自分たちのコンテンツをちゃんと作ってるな」と思えるか。会社なのか、人なのかですね。それが結局は一番成功確率の高い選び方かと思います。

山口:幅広いターゲットに向けてできる会社と、特定のターゲット理解が強い会社ってあるじゃないですか。すごくリテラシーが高いとか、金融の世界のエスタブリッシュなお作法がわかってるとか。あるセグメントに強いから打率が高いという場合もあれば、汎用的に毎回キャッチアップして顧客理解が深いからうまいという場合もありそうですね。

枌谷さん:全コンテンツクリエイターを知ってるわけじゃないですが…特定の領域に強いのは、なかなか難しい気がしています。金融に詳しいからって、金融分野のいい文章が書けるかといえば、微妙に違うと感じています。「ITに詳しいライター」といっても、テクニカルライティングは得意だけど、プロモーションは得意じゃないとか。

枌谷さん:ライターという職業にはいろんな種類の人がいますが、あらゆる人が全員揃っているわけではないですし…。むしろ、文章を書くのが上手い人と、自分たちも一緒になって作っていくスタンスでやる覚悟がないと、自分は何もせずとも素晴らしいものをあっという間に作ってもらうことを期待すると、なかなか上手くいかないことが多いです。

山口:伝える技術はプロに助けてもらうけど、何を書くかは自分たちも手を動かしコミットするんだという目線ですね。専門性は自分が担保するという覚悟で、伝えるプロを探すのが現実的なんですね。

枌谷さん:そうですね。脳みその交換はできないので、初回のアウトプットから本当にぴったり「これだ!」ってコンテンツが出てくることはあんまりないでしょう。

山口:すり合わせていくプロセスが、一緒にパフォーマンスする「チーム」に仕上がっていくことなんですね。

枌谷さん:広告のキャッチみたいな短い文章だと「これ来た!」みたいな瞬間があると思うんです。ただ、しっかり読ませる何千字もある文章は難しいですよ。文章の専門家と一緒に、自分たちの言葉を言語化していくプロセスの中で作るのが一番良いと私は思います。

山口:それをやりながら自分たちの力を磨くってことですね。非常によく理解できました。ありがとうございます。自分が楽になりたいから、忙しいから、全部引き取ってくれる会社を探そうとしますけど、その覚悟のなさがミスをする入り口ですね

枌谷さん:本当にそうですね。BtoBビジネスの根幹のインサイトは「自分たちが楽したい」だと思うんです。ただ、あんまりやりすぎちゃうとうまくいかないですよね。

山口:確かに!

山口:あっという間に時間が来ました。本日はお忙しいところ、たくさん良いお話をお伺いできました。今日は本当にありがとうございました。

枌谷さん:いえ、こちらこそありがとうございます!

 

>前編はこちら