【大好評セミナーレポート】大企業も動く”実践的”マーケティング LTVを劇的に高めるCX向上施策とは?

0. 「デジタル改革」のプロセスとは?

山口 グロースXのCOOの山口と申します。マーケティング関係の仕事を20年ほどしており、現在は複数の企業で役員や投資家、アドバイザーをしています。

今日は「大企業も動く”実践的”マーケティング LTVを劇的に高めるCX向上施策とは?」をテーマに田岡敬さんをお招きしています。

田岡さんが様々な会社に着任し、色々な課題を発見して、社内リソースを確保しながら手を打ってきたプロセスをお伺いしていきたいと思います。

山口 義宏

 

田岡 田岡と申します。まずは自己紹介をさせていただきます。

田岡 敬

田岡 スライドに挙げたように、9社での経験があります。主にD2C、小売業界で長く役員を務めてきました。現在は独立して、グロースXなど各種企業のアドバイザーをしながら、北の達人コーポレーションの社外取締役やコープさっぽろの顧問なども担当しています。

私が経営陣として経験した企業の規模は、売上で数億円から数千億円と幅広いです。スキルの面では、メディア、商品開発、ダイレクトマーケティング、データ分析、M&Aなど多岐に渡る領域で経験を積んでいます。

山口 ここまで、幅広くご経験されていたのですね。

田岡 はい。本日は私の経験の中でもニトリに焦点を当てて話を進めたいと思います。2016年〜19年にかけて、当時は上席執行役員として、現在でいうCDO(Chief Digital Officer)のような役割を担っていました。

EC、Web広告、SNS、アプリ、そしてO2O(Online to Offline)プロジェクトを横串しで管掌し、LTV分析や購買分析をしながらEC事業の急成長を支えました。このデジタル改革のプロセスを、次の1から6まで順を追って説明していきます。

 

1. 課題発見プロセス

田岡 まず「課題発見」から始まります。ニトリは中途採用者含めて全員が最初に店舗に配属されるという方針があります。私自身もその方針に従って店舗勤務をし、さまざまな気づきを得ました。

結果から言えば、最初に全員に店舗勤務させる方針は、非常に有効だと感じました。お客様が何を考え、何を求めているのか、どこに購買のボトルネックが発生しやすいかを直接見ることができるからです。

ニトリの店舗に一度訪れたことがある人は知っていると思いますが、店内は非常に広大です。スーパーマーケットは週に1〜2回訪れることが多いですが、ニトリのようなお店はライフイベントがないと行かないお客様も多いため、1〜2年ぶりに訪れるような方も多くいらっしゃいます。そのため、商品カテゴリーが豊富なこともあり、どこに何があるか分からなくて商品を探せないという問題が発生します。

また、ニトリの商品はSNSでよくシェアされるため、ある商品が一気に売れて欠品してしまうことも珍しくありません。その際、店員は欠品している棚を空いたままにせずに別商品を並べて埋めるため、お客さまが欠品に気づかずに、目当ての商品を探し続けるという状況も生まれていました。

さらに、その広大な店内で、リニューアル商品を含め常に新商品が発売されていることもあって、どこにどんな商品があるかを店舗スタッフ自身が全て覚えることも困難です。まして、私のような中高年が現場で働く場合、なかなか覚えられません。学生のアルバイトも卒業すれば入れ替わりますし、お客さまだけでなく、実はスタッフも困っている実態が明らかになりました。

山口 私も広い店内で、自宅にある収納用ケースと同じものを探そうとしたとき、商品を見つけるのに苦労した経験があります。

田岡 はい、収納用品は、たしかに探すのが大変です。同じシリーズに見えても、実は違うシリーズでサイズが合わないということも起こりますね。

 

ECサイトのウォークスルーをすべし

田岡 そして、店舗勤務に加えて、もうひとつ重要な課題発見プロセスとして「ECのウォークスルー」があります。これは私が化粧品D2Cのエトヴォスに入社時も行ったことですが、新しい会社に入社したら、自分が顧客になったつもりでECサイトの体験全体をチェックするようにしています。

トップページからカテゴリーにアクセスしたり、バナーをクリックしたり、商品を検索したり、カートに商品を入れてみたり、一連の流れを3〜4時間かけてじっくりとチェックするのです。その結果、多くの課題が浮き彫りになります。

ニトリの場合、引っ越しや子ども部屋づくりなど、具体的な目的を持ってECサイトを訪れる「目的購買」が多いです。店頭でも、SNSやニトリのECサイトの商品キャプチャー写真を見せて、「これはどこにあるの?」と聞かれるお客様が多く、目的購買の顧客の多さを実感しました。その場合、商品カテゴリーが重要になりますが、そこへの動線が弱いという課題が浮かび上がりました。

また、カテゴリや検索結果の一覧に辿り着いても、リアルな店舗と同様に、オンラインでも探している商品が見つけにくいという問題がありました。商品一覧には、サイズや色違いの商品が別々の商品として一覧で並んでいました。さらに、商品データベースの情報も足りていませんでした。実際には白のバリエーションが存在する商品でも該当商品が表示されなかったり、食器棚の内寸が明記されていなかったりするケースがありました。たとえば、お客様が現在、持っている一番大きなお皿が食器棚に収まるかどうかは、重要な要素ですよね。

ECでも店舗販売でも、現在では欲しい商品がすぐに見つかる「ショートタイムショッピング」が重要で、目的購買が終わった後に、新たな需要を喚起させるレコメンドの流れになります。ですから、まずは顧客が目的の商品を見つけやすい状況をつくることが求められていました。

最後は、在庫情報や納期についての問題です。店舗でも商品在庫の有無や納期を確認するのはお客様にとって手間の掛かる体験でしたが、ECサイトでも階層を深く進まないと、これらの情報が表示されない設計になっていました。

以上、「課題発見プロセス」では、店舗への来店時も、ECのみで購買が完結する時も、体験価値が最適とは言えず、改善の余地が大きいと分かりました。

 

2. 提案内容の作成に向けた準備

田岡 一連の課題が仮説として明確になったため、その裏付けとなるファクトを集めるためにインターネットリサーチを行いました。このリサーチは私が自身で質問設計・実施することで、予算と納期を最小限に抑えました。

山口 ご自身で手を動かして設計されたんですね。

田岡 はい。具体的に調査したのは、私が店舗で働いたときに実感した、お客様がECと店舗を並行して利用してる実態についてです。もう一つは、店舗での勤務でもECのウオークスルーでも感じた、購買のボトルネック調査です。「商品が見つからずに買わなかった人」「在庫の有無が分からずに買わなかった人」「納期が先過ぎて購入をあきらめた人」がどのぐらい存在するかを調査しました。また、ECサイトから商品を注文して店舗で受け取ると送料がゼロになるので、「店舗受け取り」へのニーズも調べました。

山口 大きな家具になると、送料も高いですよね。

田岡 はい、送料が掛かる組み立て家具もあります。購買のボトルネックに関しては、「ニトリの店舗のみ利用者」と「ニトリのECと店舗の併用者」それぞれのニーズと機会損失を調査しました。この2つのグループに分けた理由は、「ECを利用している人のほうが店舗の不便さに我慢できないだろう」という仮説を持っていたためです。

実際に「ECと店舗の併用者」は、店舗のボトルネックに我慢できず、購入せずに帰ってしまった経験を持つ人が多いことがわかりました。

山口 読み通りだったわけですね。

田岡 はい、ECに慣れてしまう人にとって「商品が見つからない」「在庫状況が分からない」といった問題に非常に高いフラストレーションを感じていることが明らかになりました。

準備段階では、社内外にある既存の情報を活用することも有効です。

社外情報としては、アプリを上手く活用している他社事例をベンダーから教えてもらいました。また、EC専門の家具会社が売上を伸ばしていたタイミングでしたので、それらの企業のUI・UX(ユーザーインターフェース・ユーザーエクスペリエンス)を調査しました。

一方で、社内情報としては「家具購入時にニトリを選択対象に入れるかどうか」という広告会社の調査結果が参考になりました。ニトリはNo.1の家具の小売ですが購買検討対象に入れていないお客様も一定数いて、顕在層に対して十分にアプローチできていないことの証明として活用しました。

さらに、テレビCMを含む各メディアの売上への貢献度の調査(簡易MMM)結果も活用したほか、ECのランディングページがトップではないケースが多いのではないかと予測し、Google Analyticsのデータを分析しました。実際、訪問者の多くが大・中カテゴリーページトップに来ていることが明らかになりました。

こうしたネットリサーチや外部データ、そして社内で眠っていたデータを掘り起こし、データ分析の基礎を築きました。

経営陣へのプレゼン日程を先に設定

田岡 経営陣へのプレゼンテーションの準備において、私がおすすめするのは先に日程を設定することです。なぜなら、完璧な資料が完成してから日程を決めようとすると、満足いく完成度に達していないと感じ、結果的にはプレゼンテーションのタイミングが遅れがちになるからです。しかもいざ日程調整となると、一定の塊の時間をもらおうとすると更に1・2ヶ月後となってしまうこともあります。

私の場合は、調査を開始したタイミングで、約2ヵ月後に社長との90分間のアポイントを設定しました。社長は通常、スケジュールが詰まっているため、先にアポイントを入れるという手法が有効な方法です。

明確なデッドラインを設け、資料作成の優先順位を定めなければ、あれもこれも足りないと思っているうちに、環境が変わって再調査をしなければならない、という事態を延々と繰り返すことになりかねません。

山口 失う時間のほうが大きいんですね。

田岡 はい。また、90分という長時間をもらった理由は、その場で意思決定をしてもらうためでした。「続きは次回」となると、また一から説明を行うことになります。その事態を避けるためにも、たっぷり時間をもらうようにしました。

当然、長い時間を取るわけですから、その分相手の期待値も高まります。それはある意味でリスクではありますが、それを避けずにリスクテイクをして挑むことが重要だと思っています。

山口 準備ができて、いよいよ提案ですね。

 

3. いよいよ提案

田岡 提案では、自分で作成した90ページほどの資料を用いました。

1つ目の提案内容は、「オフラインからオンライン広告へのシフト」です。店舗とECを行ったり来たりしているお客さまが多く、さらにECのみの顧客も相当な売上を占めているというデータ分析を根拠にしました。また、SEOやリスティング広告など顕在顧客向けの基礎的な施策をないがしろにするべきではないという話もしました。

次の提案は「アプリと WebサイトのUI・UXの改善」です。他社の成功事例を参考に、アプリユーザーを増やすための施策の必要性も説明しました。

さらに、「SNSを活用したコミュニケーションの強化」も提案しました。ニトリの商品はオンライン上の口コミが効果的に作用しているにもかかわらず、2016年当時、Twitterアカウントをもっていない状況でした。

山口 7年ぐらい前ですね。

田岡 そうです。また、商品情報が充実していない問題については、福岡と札幌の物流拠点に撮影スタジオの設置を提案しました。物流拠点内での設置を提案したのは、ベットやソファーのような大型家具は輸送費がかかるため、撮影のために移動するだけで経費と手間が増大するからです。そこでは撮影だけではなく、食器棚の内寸を測るといったことも合わせて行うようにしました。また、商品情報を充実させるためには、商品部の協力が不可欠なので、その協力をお願いしました。

次に、人材確保についてです。専用商品の開発担当、ECの企画・運用担当、広告とSNSの運用担当の役割の人材がほしいと話をしました。

そのほかでは、LTV(顧客生涯価値)をベースに展開するために購買分析を提案しました。これはすぐに実現したわけではなかったですが、後に実施できました。

また、やはり根本的なWebサイト・アプリのリニューアルが必要と考えました。それを踏まえて、リニューアルについても、最初から提案しています。こうして、さまざまな施策の意思決定をしてもらうことができました。

 

4. 具体的施策の順番こそ重要になる

田岡 次に、私が実際に行った具体的な施策について話します。この過程では、打ち手の「順番論」が非常に重要です。図にある通り、インパクトは右から左に向かって(商品・サービス>商品情報>UI・UX>来訪促進)で高くなります。

多くの人は、最初にWeb広告やCRM、MA(マーケティングオートメーション)の活用など「来訪促進」に目がいきがちです。しかし、それ以上に重要なのは「UI・UX」です。ECサイトにユーザーが訪問したとしても、そこでの体験が悪く、CVR(コンバージョンレート)が低ければ、どんなに多くの人が来ても購入しない状況になります。よく言われるように、底が抜けたバケツに水を汲んでいる状態です。

そして、この「UI・UX」よりも、もっと重要なのが「商品情報」です。ユーザーが商品ページを訪れても、情報がスカスカだともちろん商品は売れません。

山口 ここでもCVRが低下するということですね。

田岡 そうです。商品の詳細な写真やスペック、使い方などの情報は重要です。さらに、それ以上に重要なのが、商品そのものです。商品に価値が感じられなければ、いかにECサイトやアプリが優れたUI・UXで、詳細な商品情報を提供しても、誰も買うことはありません。

このように考えると、「順番論」としては、図の左側から取り組む必要があることが分かります。これによりCVRが改善し、購入点数も増加します。購買満足度が上がることにより、リピート購入やクロスセルも増え、結果的にLTVが向上します。

そうはいっても改善活動は並行して進めますが、 特に来訪促進活動は、左側が整わない状況で投資しても無駄になってしまいます。CVRを改善し、購買分析を行ってLTVが高いターゲットや商品、効果的なプロモーションを見つけてから展開するのです。

山口 たしかに、広告から実施してしまう企業も多いように思います。

田岡 そうですね。一般論として、デジタル化に舵を切ろうとすると、一番左の来訪促進が現在の業務プロセスを変えずにできるため、右端から進めがちです。

実際は、左の3つに取り組み、CVRが一定の基準値を超えて初めて大掛かりのプロモーションをしていかないと、うまくいきません。せっかく新たにもらった予算で効果が出ないと、信用を失って次の予算がとれなくなります。

山口 ここは大事なポイントですね。

田岡 はい。商品・サービスの面では、EC専用の商品開発者をアサインしてもらいEC専用商品の開発強化、 物流拠点の増設、システム改修による納期短縮などを行いました。

商品情報に関しては、さきほどお伝えした通り、福岡と札幌の倉庫内にスタジオを作り、従来は切り抜き写真のみだった家具写真を、例えば、ソファであればラグと一緒に撮影したり、人が座ってる状態で撮影したりした写真を追加し、家具の内寸もそこで測って表記するようにしました。テキスト情報については、カテゴリー別に商品データベースのセルごとの空欄率を出し、商品部に提出し埋めていってもらいました。これらの改善だけでも、CVRは大きく改善しました。

さらに、ショートタイムショッピングの実現に向けて、先ほど述べたカテゴリーへの導線に加えて、レコメンド機能も強化しました。例えば、それまではベッドのページを見ている人にも大型超人気季節商品のNクールがレコメンドが出ている状態でしたが、ベッドを見ている人にはまずはベッドのレコメンド、ベッドをカートに入れた・買った人には関連商品であるシーツをお勧めするなど、レコメンド対象を絞りました。目的購買者が目的購買が終わっていないうちに回遊させるのは逆効果です。

田岡 購買分析により、ニトリのような家具業態では、しばらくニトリで何も買ってない人もまた買ってくださるということも多いことが見えてきました。

一般的なD2Cだと、アクティブ顧客が徐々に減り、休眠顧客が増えるというイメージだと思うんですが、ニトリではどのお客さんも起きたり、寝たりを繰り返してるんですね。

山口 低頻度だけど、確実に来るという感じですね。

田岡 そうです。購入のトリガーが家族構成の変化や引っ越しなどで、企業側でコントロールできないんですよ。需要喚起が難しいので、薄くつながり、いかに想起をキープできるかが重要だと判断しました。そこで、TwitterやLINEでつながり、コミュニケーションコストをあまりかけずに想起を保つようにしました。

山口 ずっと厚く張り続けるのは合理的ではないから、ライフイベントの発生時に思い出してもらうように、薄くでも関係を途切れないようにする、みたいな感じですね。

田岡 そうです。購買分析によって、売上に占める引越し顧客の割合が高いことがあらためて分かり、引越しの顧客向けWeb広告を通年化しました。春は競合企業も引越し顧客向けのキャンペーンを強化しており競争が激しいですが、実際のところ春に引越しをする人は年間の1/3程度ですので、アプローチを通年化するメリットは大きいのです。

山口 引っ越しは春というのは、固定観念なんですね。

田岡 はい。また、UI・UX改善に向けた施策としてアプリ内に「画像検索機能」を開発しました。たとえば、私が今座ってる椅子を撮り、アプリ内で検索すると、それがニトリの商品であれば、該当商品を表示してくれますし、それが他社商品であればニトリの中での似た商品をレコメンドします。撮影でなくキャプチャーでもOKです。

最初にお話した通り、店舗スタッフもお客さまからWebサイトのスクリーンショットを見せられても、その商品がどこにあるかがわからないんです。そこで、同じ機能を店舗スタッフ用のアプリにも導入し、商品を探すときに役立てるようにしました。

山口 業務プロセス改善になるわけですね。

田岡 はい。実は顧客が困ってることと、新米の従業員が困ってることは同じです。サービスを作る時に両方に向けて作ると、機能開発のROIが合っていきます。

 

5. 得られた結果は?

田岡 私がニトリで2年半働いた間に得られた主な成果をご紹介します。数値を実際にお話しできるのは、ニトリが発表しているかSNSのフォロワー数等で公のもののみになります。

まずECサイトのコンバージョンレート(CVR)が大きく上昇しました。先述の通り、これがプロモーションを拡大する前提となります。

次に、Web広告の予算については具体的な数字は公開できませんが、大幅にオフラインから予算をシフトしてもらいました。

そして、アプリのインストール数ですが、私の記憶では、約90万から約350万へと大きく増加しました。それ以後、コロナ禍で加速して現在では約1600万まで増えているようです。

山口 すごい。

田岡 店舗運営部と連携し、店舗でアプリのインストールを案内することで、インストール数を大幅に伸ばすことができました。これはデジタルと店舗の併用者が多いため、デジタルシフトすることが店舗運営部のためになるということを、前述のアンケート結果を基に理解してもらえたから可能となりました。

Twitterのフォロワー数は、0から立ち上げて120万人まで増やしました。現在はさらに増えて約185万人です。LINEの友だち数も、私が辞めるときには約1100万人で、現在では外部から見ることができる数字で約2900万人にまで増えています。

EC売上も約200億円から私が在籍していた期間に約400億円へと成長しました。そして、コロナを経て、現在では911億円まで増えているとのことです。

山口 当時から4.5倍になったってことですね。

田岡 そうですね。私の最も大きな功績は、デジタルコミュニケーションとEC事業に投資し続けるという経営方針を獲得したことかもしれません。若手のホープとされる人材をECやO2Oプロジェクトにアサインしてもらい、新しい取り組みを積極的に仕掛けられました。DXは単に資金を投入するだけでは解決しません。

私個人としても、最初は何も担当が決まっていない状況から、ECを管掌し、Web広告やSNSを移管してもらい、アプリ開発を推進しながら、O2Oプロジェクトの立ち上げと購買分析まで幅広く経験できました。

 

6. 組織を動かすポイント

田岡 皆さんの参考になればということで、「組織を動かすためのポイント」を共有したいと思います。

まず最初に大切なのは、仮説を立て、それを証明するためのファクトを作り、経営陣に判断を促すことです。先ほど言及した通り、インターネット調査で「店舗とECを行き来するユーザー」が多いことを明らかにしました。

そして、この調査結果はIR資料にも掲載され、ニトリがデジタルに投資する根拠として使われました(参考:決算説明会資料)。

山口 データが1人歩きするケースですね。

田岡 そうです。 当時の役員陣も、デジタルがこれからは重要になると理解していました。しかし、単に「デジタルが重要だ」と認識しているだけでは、組織と予算は動かないんです。

そこで、「要意思決定」を「誰でも同じ結論の判断領域」に落としこむことが必要になります。その際に、ファクトが大きな力を持つのです。

もうひとつ、ファクトが重要になる事例を紹介します。ニトリは都心に多くの店舗を構えていますが、都心店の家賃や物流費、人権費は高いため、都心店出店が適切かという議論がありました。そこで購買分析を行い、都心店で獲得した新規顧客はEC化率が高く、ECも含めると出店価値があることをレポートしました。こちらも社長がメディアに対してそのように説明しています。

山口 わかります。私が住んでいるエリアは渋谷周辺ですが、中目黒と渋谷に店舗ができる前は、ニトリとの接触は少なかったです。ただ、店舗が開店した瞬間から、訪問頻度が劇的に増えました。

田岡 そうなんです。店舗で商品の品質を確認できれば、その後はECから注文するんです。都心への出店によってECの新規顧客が増え、結果的に出店のROIが合うという分析をしました。このように会社の経営のバックボーンとなるファクトを作ることは、非常に重要だと考えています。

また、社内に理解者を増やすことも大事です。経営者は新しい提案をもらうと、他の経営幹部に「こういう提案をもらったんだけど、どう思う?」とサウンディングをすることがあります。そこで全員から賛同を得る必要はありませんが、賛同してくれるキーパーソンがいると、意思決定がスムーズに動きます。そうしてクイックウィンを重ねて、信頼してもらって、大きな挑戦をしていきます。

最後に、そうは言っても、社長など決裁者に直接レポートをしていて、その人の承認を得ればなんとかなる、というポジションは重要です。また、新しい会社やポジションに移ると、最初はリソースが不十分なため、自分で行動しなければならないケースも多くあります。リソースがない、味方もいない状況は当たり前だと思い、自分で手を動かす覚悟が必要です。

皆さんも新しい仕事にチャレンジするときは、 このようなスタンスと覚悟で臨んで欲しいと思います。

以上です。ありがとうございます。

 

7. グロースXのご紹介

山口 ありがとうございます。私たちがよく知るニトリが題材でしたので、自分の経験と照らし合わせて、とても理解しやすかったです。お話されていたことができる組織に育つ方法として、私からグロースXについて紹介します。

田岡さんがお話された通り、「課題を特定し、それを解決して数字を向上させるアプローチ」と「具体的な施策についてのノウハウ」の両方を組み合わせる必要があります。

現在、多くの企業でDXやCX改善がうまく進んでいない背景は、組織面から見ると顧客体験に関わる部署・人数が多いという点が挙げられると思っています。

田岡さんがEC事業から始めて、徐々に管掌領域を増やしていった様子が印象的でした。多くの企業では複数の部署間での連携が必要となるため、それらを支える共通言語が必要になります。ただ、企業規模が大きくなると、どうしても弱くなってしまう傾向があります。

個人レベルのスキルに関しても、事業や顧客ついて深く知ってる人材がデジタルに詳しくない場合や、逆にデジタルは詳しいけれど、事業や顧客への理解が薄い場合があり、推進力がなかなか生まれないという問題があります。

事業・顧客についての理解、デジタル技術の理解、この両方の知識を備えた人材をどれだけ増やすことができるかが重要なポイントです。顧客体験の改善には、この2つの要素を理解できる人材を社内に広範囲に育成していくことが大切だと考えています。

我々が提供しているソリューションの紹介動画があります。30秒ほどですので、ご覧いただくと概要と雰囲気がわかります。

 

 

 

山口 部門や業務を超えた共通の考え方や言語の浸透が、我々のサービスの鍵だと考えています。メンバーが幅広く共通のカリキュラムに取り組むことにより、社内でのコミュニケーションが円滑になり、協力的な関係を築きやすくなり、より大きな成果を出すことができます。

もちろん、学んだことをしっかり実践しなければ成果は出ません。集合研修の場合、学習が単発で終わってしまうことがあります。そのため、日常的にインプットを継続できるeラーニングと集合研修をハイブリッドで提供しています。

私たちは「学習」「議論」「実践」というフレームワークでサービスを提供しています。事前の学習はeラーニングのアプリを使い、通勤時間や業務の合間など隙間時間に15分程度を学びます。

次に、我々のカスタマーサクセスチームの専任担当者が、毎月1回、Zoomでのミーティングを行います。ここでは、学んだことを自社や部門でどのように実行するか、顧客体験を具体的にどう改善するかなど「ToDo」を出し合います。このミーティングが学習した内容を実践に移すきっかけになります。

その後は、各チームや個人が実践に取り組みます。この「学習」「議論」「実践」のサイクルを12ヵ月続けることで、継続的な学習と実践を積み重ねます。私たちが提供する育成プログラムは、ただ学習するだけでなく、実践に至るまでを包括的にサポートするカリキュラムになっているのです。

山口 12ヵ月間のカリキュラムは、多岐にわたる内容をカバーしています。顧客理解や顧客価値のほか、具体的な施策の知識として、新規顧客の獲得から長期的な関係性の構築関係までを学びます。

商品・サービスの企画、コミュニケーション、プライシング、販売チャネルに加え、それらを実行する上で必要になるプレゼンテーションやデータ、統計基礎、マインドセットも含まれます。

特にボリュームが大きい学習領域が図の上半分になり、マーケティングの具体的な手法を詳しくお伝えする内容です。

診断プログラムは、「顧客体験の創造力」「デジタル対応力」「チームの推進力」という3つの観点でスコアリングを行います。その結果を1万人以上のビジネスパーソンや、既にグロースXの受講者と比較し、自社の位置付けがわかります。

上の図は、グロースXを導入した上場企業の売上成長率を示しています。赤色のグラフが我々のプログラムを導入している上場企業です。

我々から因果関係が証明されているとは言えませんが、導入企業は東証上場企業の全体よりも高い成長率を達成していることが確認できました。特にコロナ禍でも持ちこたえて、伸びている点が大きな特徴です。

田岡さんは、経営に関わってきた立場として、人材育成については、どうお考えですか?

田岡 非常に重要だと思ってます。特に、全員が自社のバリューチェーンを理解していること、自社の共通言語が浸透していること、この2つの実現のための教育投資が重要だと思っています。通販会社のJIMOSの社長時代は、売上100億円規模でしたが、教育費に3000万円ぐらいかけて、独自の学習プログラムやアプリを開発していました。

山口 顧客体験を変えていく時に、それをキャッチアップできる知識やスキルが社員にないと、会社が動かないということですね。

田岡 はい、もちろんです。

山口 以上で、今日のセミナーを終了します。今日はありがとうございました。

 

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